■6位、オリックス、佐藤世那、仙台育英…

このコールを聞いたとき驚いたのは私だけではないはず。と同時に、高校生の大物ルーキーは、5位指名の吉田凌と共に本当に久しぶりだなぁ、と思った。甲子園で目立ったメンバーを、バファローズはなかなか獲得することができなかった（大阪桐蔭の藤浪晋太郎の指名をしたが、クジで外した。） 。

甲子園の大物というと、バファローズ…いや、ブルーウェーブには苦い思い出が付きまとう。平安（現・龍谷大平安）のエース、高校左腕三羽ガラス・川口知哉の抽選権を引き当て、優勝の流れもそのままに来てるなーと思ったのもつかの間、当時のコーチにフォームをいじられてまったくモノにならなくなってしまい、結局一勝もできずに球界を去った。これを境にして、チームも一気に下降線をたどり始めた。
※ちなみに、川口は「ブルーウェーブ以外は指名拒否」という姿勢をとっていたある意味、奇特な選手だった。 

この後高校生の大物、新垣渚（現・スワローズ）、内海哲也（現・ジャイアンツ）に指名拒否され、高校生大物投手を回避するドラフトが定着してしまい、そして獲得した高校生の投手で大成したメンバーは一人もいなかった。こうして、「ブルーウェーブは高校生投手育成がド下手な球団」というレッテルを貼られてしまったまま、バファローズとの合併を迎えた。

■今回は、川口と同じ轍を踏んではいけない。

今回の佐藤世那の指名に関して、私は川口のときと同じ轍を踏まないかが心配。というのも、佐藤世那のフォームは、正直「すぐ直す」対象になりやすいアーム式の投球フォームだから。アーム式は腕が伸びきるためにケガをしやすく、いわゆる褒められるようなフォームではない。現に、この投球フォームが原因であれだけの輝かしい実績がありながら上位指名されなかった、ということもある。

私も、出来ることならばこのフォームは直した方が長くは投げられると思う。
ただ、フォームを修正したときにあの独特な軌道のフォークボールは失われないのか。そもそも、まともな球が投げられるのか。この点は気にならざるを得ない。佐藤世那を指名したのは、当然ながらボールが良かったというのが大前提なのだから。一般的なフォームに直して、「ケガこそしないけど、どこにでもいるような投手」になってしまったら、それはそれでつまんないんじゃないのか、と私は思う。

それぐらいに、佐藤世那のポテンシャルは魅力的なものである。だからこそ、ここは安直に首脳陣が方針を押し付けるのではなく、じっくりと相談した上で、心から納得のいく育成をしていってほしいと思う。

■佐藤世那の育成は、時間をかけて行ってほしい。

もっとも、佐藤世那の魅力はボールだけではない。U-18日本代表のエースとして投げた精神力も大変重要な魅力。だからもし、投球フォームの変更ということになっても、持ち前の強い気持ちでモノにしてくれるんじゃないか、という期待もある。 

ただ、そのままのフォームか投球フォームの変更になるかどちらにせよ、育成に時間をかける必要がある投手なのは間違いないと思う。一番良くないのは、ちょろっとオープン戦やらで通用した程度で過度な期待をかけて、見切り発車的な形でデビューさせて潰してしまうこと。
幸い、バファローズの先発は高卒投手に頼らなければならないほどキュウキュウではないので、普通に考えればデビューは後倒しに出来るはず。

だから、佐藤世那本人には焦らないでほしいし、首脳陣も焦らせないでほしい。焦らず育てていけば、数年後、マウンドで仁王立ちする彼の姿が見られるんじゃないかと思います。